2006年 07月 28日
それは何か得たような気がする |
22時.
校内で一番高い場所へ僕は移動する.
屋上.
僕はクシャクシャになったケースからタバコを抜き取る.
それに火をつけ,思い切り吸い込む.
紫煙を燻らすとき,眉毛を歪ませる.
昔から変わらない癖.
何度も指摘された癖.
でも結局直らなかった癖.
地上から帰宅する人々の声が聞こえる.
声のトーンが高いから
彼らはきっと学生だろう.
ここに居る学生は,平均より長く学生をしている.
無論僕もその一人.
研究,学会,論文.
それが公然の合言葉.
僕の帰宅時間はもうちょっと先.
もう一度,左手のそれを思い切り吸い込む.
「今週末は潰れたな…」
別にこれといった予定は無かったから
不都合は無いけれど.
煙を吐き出しながら呟く.
何の前置きなしにポケットの携帯が震えだす.
ディスプレイには懐かしい名前.
僕の癖を指摘し続けた人の名前.
むしろ僕の喫煙を否定した人の名前.
「もしもし」
「もしもし」
「……久しぶり」
「久しぶり」
「元気してた?」
「死んでる」
「ふふ,変わってないね」
「変わってたまるものか」
「そういう子供のところとか全然」
「ほっときなさい」
沈黙.
ずっと聞きたかった声.
でも聞いてはいけない声.
正直,僕の声は震えていた.
泣きそうだったから.
僕は必死にこらえていた.
「それで何?俺に電話かけてくるってことはよっぽどの事でしょ?」
「うん」
「どうした?」
「うん」
「返事ばかりじゃわかりませんって」
「あのね」
「うん」
「私………来月結婚するんだ」
「………そうか」
「うん」
「よかったな」
「…うん,ありがとう……」
「相手は?会社の人?」
「うん,先輩なんだ」
「そうか……よかったな」
「…うん,ありがと…」
「式は…地元?」
「ううん,相手の地元」
「そう…まぁなんだ……お幸せに」
「ありがとう……」
「おいおい,泣いてるのか?声震えているぞ」
「泣いてないよ…」
「そうか……」
「うん」
「………」
「………」
「幸せになれよ」
「うん,ありがとう」
「うん……あ,あの…教えてくれてありがとう」
「うん」
「とにかく,いろいろありがとう.お幸せに.旦那さんによろしく.」
「うん……言っておく」
「じゃあ」
「じゃあね」
お互いの電波は途切れた.
彼女の声は震えていた.
でも僕は泣かなかった.
ここで泣いたら雰囲気に流されてしまう.
そう思った.
気づけば左手のタバコは消えていた.
僕はなぜか鼻で笑いながら
もう一本タバコを加えた.
空を見上げた.
まだ梅雨が明けてないから,厚い雲が覆っていた.
星は見えなかった.
でもやっと支えられていたものが無くなった気がした.
もう逃げ道が無いと思った.
そもそもそんな都合の良いものは無かったのだが.
「取りあえず週末は実験決定だな」
僕は自分に言い聞かせた.
そして笑った.
声を出して笑った.
静寂と闇に包まれた校内に笑い声が響いた.
それがさらに笑いを誘った.
一方その頃,ままかりは実験に失敗していた.
ままかり「ぎゃぼー!!」
校内で一番高い場所へ僕は移動する.
屋上.
僕はクシャクシャになったケースからタバコを抜き取る.
それに火をつけ,思い切り吸い込む.
紫煙を燻らすとき,眉毛を歪ませる.
昔から変わらない癖.
何度も指摘された癖.
でも結局直らなかった癖.
地上から帰宅する人々の声が聞こえる.
声のトーンが高いから
彼らはきっと学生だろう.
ここに居る学生は,平均より長く学生をしている.
無論僕もその一人.
研究,学会,論文.
それが公然の合言葉.
僕の帰宅時間はもうちょっと先.
もう一度,左手のそれを思い切り吸い込む.
「今週末は潰れたな…」
別にこれといった予定は無かったから
不都合は無いけれど.
煙を吐き出しながら呟く.
何の前置きなしにポケットの携帯が震えだす.
ディスプレイには懐かしい名前.
僕の癖を指摘し続けた人の名前.
むしろ僕の喫煙を否定した人の名前.
「もしもし」
「もしもし」
「……久しぶり」
「久しぶり」
「元気してた?」
「死んでる」
「ふふ,変わってないね」
「変わってたまるものか」
「そういう子供のところとか全然」
「ほっときなさい」
沈黙.
ずっと聞きたかった声.
でも聞いてはいけない声.
正直,僕の声は震えていた.
泣きそうだったから.
僕は必死にこらえていた.
「それで何?俺に電話かけてくるってことはよっぽどの事でしょ?」
「うん」
「どうした?」
「うん」
「返事ばかりじゃわかりませんって」
「あのね」
「うん」
「私………来月結婚するんだ」
「………そうか」
「うん」
「よかったな」
「…うん,ありがとう……」
「相手は?会社の人?」
「うん,先輩なんだ」
「そうか……よかったな」
「…うん,ありがと…」
「式は…地元?」
「ううん,相手の地元」
「そう…まぁなんだ……お幸せに」
「ありがとう……」
「おいおい,泣いてるのか?声震えているぞ」
「泣いてないよ…」
「そうか……」
「うん」
「………」
「………」
「幸せになれよ」
「うん,ありがとう」
「うん……あ,あの…教えてくれてありがとう」
「うん」
「とにかく,いろいろありがとう.お幸せに.旦那さんによろしく.」
「うん……言っておく」
「じゃあ」
「じゃあね」
お互いの電波は途切れた.
彼女の声は震えていた.
でも僕は泣かなかった.
ここで泣いたら雰囲気に流されてしまう.
そう思った.
気づけば左手のタバコは消えていた.
僕はなぜか鼻で笑いながら
もう一本タバコを加えた.
空を見上げた.
まだ梅雨が明けてないから,厚い雲が覆っていた.
星は見えなかった.
でもやっと支えられていたものが無くなった気がした.
もう逃げ道が無いと思った.
そもそもそんな都合の良いものは無かったのだが.
「取りあえず週末は実験決定だな」
僕は自分に言い聞かせた.
そして笑った.
声を出して笑った.
静寂と闇に包まれた校内に笑い声が響いた.
それがさらに笑いを誘った.
一方その頃,ままかりは実験に失敗していた.
ままかり「ぎゃぼー!!」
by atsushi_mamakari
| 2006-07-28 00:29
| 駄日記